2011年 11月 30日
11月も終わり、日増しに寒さの増してゆくこの頃。湖畔のプラタナスは葉を刈取られて冬仕様に。夏のような明るさはないけれど、晴れた日には冬の透きとおった空気に湖と山の風景が映えて、とても美しいのです。 秋から、クラッシックな技法を学ぶコースが続いています。 先日は2週間かけて、French binding、フランス式総革製本を学びました。 この製本方法は、美術・工芸製本の中でも、いちばんといっていいほど丁寧で細やかな作り、また時間のかかる製本様式です。 美術製本界(?)の中で昔から君臨してきた王さまのような本、オートクチュールの本、とも言えるかもしれません。 ヨーロッパの愛書家や製本家の間では、敬意を持って扱うべき、特別な本として未だ支持を得ています。 私も日本でこの製本様式を学びましたが、自分の仕事でこの様式の本をつくる機会はなく、この技法への強い欲求はありませんでした。 しかし今回スイスで再び学び、その完成された技術の素晴らしさにあらためて感じ入ったのでした。 その工程ひとつひとつに、製本家が手で本を作ってきた長い長い歴史の断片を見るような思いがするのです。よくぞここまで、と言わんばかりに手をかけられて作られる本には、ひとの、本への敬意が詰まっています。 さて前置きが長くなりましたが、French bindingの長い工程のいくつかを簡単に紹介したいと思います。 こちら、綴じる前の本。麻ひもを芯にして、糸で本を綴じていきます。 これは背の丸み出し。 糸で綴じられた本は、その糸の分だけ、背が厚くなります。 その厚みを外に逃がして、背を丸くし整えるのです。この工程では金づちで本の背をたたき背を丸く整えていきます。 ここまでは他の製本とあまり変わりません。 今回は、本の天に金箔で化粧をする、天金にもはじめて挑戦。 本の天を断裁機で切り、鏡面のようになめらかになるまでやすりがけした後、金箔を貼っていきます。 先生の作業のようす。金箔が貼られた天を磨いているところです。 そして、French bindingでは花ぎれを「編む」のです。 ドイツ式とフランス式花ぎれの方法を教わりました。 写真はドイツ式花ぎれ。二本の絹糸を組みあわせながら、縞模様を編んでいきます。 この後も本をプレスしたり、粉まみれになってやすりがけしたりと様々な工程があります。 次の写真は本に貼られる革を漉いているところ。 まず機械を使って革漉き、次にナイフで細かな革漉きをします。 すべて均一の厚みに整えるのではなく、本の部位にあわせて、異なる厚みに漉いていきます。 人間の身体も部位によって厚みが違うように、本が機能的に動くために、端正なかたちになるために、この革漉きの工程は欠かせません。 そして革を本に貼り付けているところ。 花ぎれにわずかに「帽子」のように革がかぶさるように、形よく整えます。 この後も見返しの貼られる表紙内側に紙を貼ったり、表紙のつなぎ目に革を貼ったりと作業は続きます。 次のコースでは、この本に装飾を施しました。 ベルリンの材料店で見つけた真鍮版と、さまざまなトーンの青のシルクを組み合わせたモザイクです。 本の内容をよくよく咀嚼して出来上がったデザインです。 こうしてfrench bindingに取り組んだ3週間あまりの日々は、ヨーロッパの製本の歴史の厚みを感じる濃厚な時間になりました。 技術的には難かしく苦労も多々ありましたが、この技術と経験を日本でどう応用できるかがこれからの課題です。 実際の仕事に使うことはないなのかもしれませんが、古典的で完成されたこの技術から応用できるものはたくさんある、はず。 ヨーロッパの製本の技術をそのまま輸入しても日本に根付くことは難しい、日本で製本の仕事がもっともっと育つためにはどうしたらいいか、帰国までもう少し模索の日々は続きます。
by honno-aida
| 2011-11-30 18:04
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