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山と水と本のあいだースイス製本修業日記ー

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2011年 06月 17日

スイスで出会った本たち(1)

チューリッヒ界隈の「本」事情はどうなっているんでしょう。
到着後、少し町の空気にも慣れてきたので、チューリッヒや近郊の街を、本を求めて歩いてみました。
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まずはチューリッヒ湖の右岸、ニーダードルフ通り。カジュアルなレストランや雑貨屋、骨董屋、小さなギャラリー、そして古本屋が並ぶ、路地裏散歩が楽しい通りです。左岸の目抜き通りのゴージャスさに参っていたので庶民的なこの界隈の雰囲気にとてもほっとしました。
古本屋さんは、数が少ないながらも、版画と一緒に本を扱っている所や、ギャラリーも併設された所など、個性的なお店が多い。写真は、なかでもお気に入りの一軒。中に入るとまた天井まで本がびっしりです。(ショーウインドーは綺麗なんだけれど、日が直に当たるので、本が焼けないか心配です。)
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もちろんドイツ語の本がほとんどなので、判読できない本も多いのですが、本の背や佇まいに、全身の力を集中させて「なんか持ってる」本を探し出します。手製本で作られたであろう、革装にマーブル紙をあしらった本や箔押しで壮麗な飾りを施した本もありました。どれもクラシックなデザインで、一点ものではなく、小さな工場で何人かで大量に作られたのだろうと思われます。
ドイツ、ドイツ近郊では機械製本の技術が進んでいたので、どの時点まで一般に流通していた本をつくる手製本の工場が残っていたのか、今後調べていきたいなと。
ここでは結局、チューリッヒの登山サークル(?)が1920年に出した、アルプス登山の解説本を買いました。布装、手の中に収まるサイズ、山の地図も豊富で、選んでいるルートがマニアック。これを携えて登山に行こうかと思います。

さて今度は、チューリッヒから列車で一時間の街、ザンクトガレンへ。
世界遺産にも登録されている、修道院図書館を訪れるのが目的です。
まずは修道院外観。
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こちらは修道院に隣接する、大聖堂の内部。ちょうどミサが行われていました。
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そして、いよいよ図書館へ。
ここは、蔵書17万冊、10世紀以前の写本も400冊以上を保存しているという、ヨーロッパでも貴重な古文書コレクションを誇る図書館です。
一歩図書館ホールに足を踏み入れると、ひいっと思わず声を挙げてしまうほど、その空間の持つ迫力に圧倒されてしまいました。
ここは18世紀に後期バロック形式で建築されたもので、図書館ホールの壁にはぐるりと、壮麗な装飾を施された木製の書棚が天井までそびえ立っています。
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写真は禁止されていたので、ポストカードのものを拝借しました。
書棚の本はもちろん見ることはできず、コレクションの中から数冊の本が、ガラスケースに入れられて展示されていました。
中世以前の写本を見るのははじめてのこと、修道士たちがなぞったであろう文字の線一本一本に、彼らが字を刻んでいた時と、自分がその写本を見ているいまとの時間の隔たりを思い、どれほどの間この本が残ってきたかという事実に愕然とするほかありませんでした。
木を表紙に用い、革のバンドに本文を綴じつけた製本や、羊皮紙の破れを色糸で手術のように縫合してある修復など、本のかたちにももちろん興味を引かれたのですが……。
千年以上の時間を経て残ってきた本たちは、もはや本ではないのでは、それではその本たちを保存しているこの図書館は何なのだろう?と、
終わりのない問いが頭をぐるぐるとまわり始め、深い考えの淵に沈み込んでしまいました。
人間の積み重ねてきた歴史を記憶し、保存するあの図書館は、例えれば人間の脳みそそのものだったんじゃなかろうか…本一冊一冊は脳みその襞のようなものだったのかもしれません。
記録を残し、後世に伝えるという重要な役割を担っていた本。
千年を経て、私たちが生み出す本は、また千年後の人たちにどのような印象を与えるのだろう。
記憶の継承、という本のたいせつな役割に、あらためて出会った、ザンクトガレンの旅なのでした。

by honno-aida | 2011-06-17 19:45 | 2011年6月


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